新しい経営とは

2001年6月25日

堀川 哲朗

 

 私は、これからの経営の要諦は以下の様な物になるのではないかと思います。基本は、至ってシンプルです。

 

1.市場原理(チェックアンドバランス)と適切な利益配分

 

日本には充分に技術・発想の芽が有ります。それが花開かない最大の理由は、利益の配分が適切になされていないからだと思います。確かに現状でも、一部上場企業の労働利益分配率は、50%程度であり、利益の概ね半分が従業員に分配されている事になります。これはこれで良いとして、問題は、そこに分配の不均衡が存在するため、人々のやる気を阻害し、組織運営に非効率が発生している事です。

 

すなわち、戦後永らく続いた終身雇用・年功序列の体制の為、低成長の時代にあっては、実績と報酬とのバランスが極度に歪む事になってしまいました。

 

アメリカなどでは、業界にもよりますが、実績に応じた報酬という原則に近い形が取られている為、やる気と能力のある人が、実績を出し、それに応じた報酬を受け取る事で、ますますやる気と能力を増大させるという、好循環が上手く機能して、昨今の経済成長を謳歌していると言えましょう。

 

その現状分析の子細は他書に譲るとして、では、どうすれば、この様なダイナミズムを実際に手にする事ができるか、以下に具体的に述べてみましょう。

 

2.基本原則

 

業種によっても違うのでしょうが、基本的に以下の原則を守るのが有効と考えます。

 

各利益創出部門(プロフィットセンター)の従業員が上げた利益の半分を従業員が取り、残り半分を会社が取る。会社はこの利益の範囲内で管理部門を養い、利益を出して株主に配当する。

 

以上です。もっとも、それではあまりにも簡単すぎるので、以下に補足していきます。

 

 

.給与計算の基本

給与は基本的には自己の生み出した付加価値(=利益)に基づいて支払われるべきです。しかし、全くの能力給という事にすると、新規事業を開発する時、万一業績を残せなかった場合に生活ができなくなるといったリスクを負うことになります。その為、皆が短期的な利益獲得に走り、長期的な観点が失われがちになるかも知れません。そこで、生活に必要な最小限の給与は、固定給として支払います。これは、年齢や在社年数、家族構成等を考慮して算出します。

基本的には売上粗利益から自分の活動経費を引いたものの半分が自己の収入になりますが、もしその金額が固定給の金額を超えない場合は、固定給が支払われる訳です。売上が一定の水準を超えない場合、固定給支払いは会社にとって負担になりますが、各人は最小限の生活を保障されることで、リスクを取って新規事業にチャレンジする事が可能になり、ひいては会社にとっても効率的に新規事業が展開できることになります。また、いつまでも固定給のままだと、会社に貢献していないことが一目瞭然ですから、早くその情況から脱出できるように各人努力するインセンティブが働きます。

 

.従業員の福利厚生費と支出コントロール

福利厚生費は、基本的に従業員自ら選択します。会社から出た給与を元に、必要なサービスを会社に委託する形にします。こうする事によって、会社の福利厚生事業は、極度に効率化されるでしょう。但し、厚生年金や社会保険については、制度の制約上(会社の折半出資が義務づけられている)、ほぼ全員が会社に委託する事になるでしょうが、逆に言うと、それ以外の福利厚生はおそらくほとんど無くなるでしょう。たいていの場合、自分でやった方が効率的だからです。

 

また、交通・通信費の自己負担も効率化の一貫です。自腹を切る事により、各人は最適のコミュニケーション手段を自分で選択する事になり、結果的に交通・通信費を大幅に合理化できます。これにより、手当て欲しさや予算消化といった理由で無駄な出張をしたり、逆に、予算が無いという理由で必要な主張ができなく事もなくなるでしょう。無駄な国際長電話はメールにとって変わります。合理化された部分は、当然各人の報酬の一部となって帰ってきます。

 

. 営業部門の利益計算

営業部門は、売上、仕入、そして利益がクリアに目に見えるので、比較的シンプルです。個人もしくはチームである製品の販売(プロジェクト)に責任を持ち、その売上粗利益(売上ー売上原価)から各活動に必要な給与以外の経費(交通費、通信費、その他雑費、事務所の割掛け経費など)を差し引きます。交際費は同額を別途管理部門へ納めます。その残額である利益を会社と個人又はチームとで折半します。チームの場合は、そのチームリーダーが、各チーム員の働きを評価して、その評価に応じて利益をさらに分配します。利益を適切に分配する事は、チームリーダーの最も重要な役目の一つです。人材の社内流動性は完全に確保されています。こういった状況下では、下手な配分は命取りとなります。従って、十分なチェック機能が働きます。

基本的に新規事業は個人もしくは、意気の合った者同士のチームで始まり、事業が順調に推移すれば、社内外の公募により、新たなメンバーを募ります。社内公募に応募する人は、現在の仕事とそれによる利益の配分、それと将来行くであろう部門の将来性(将来の利益)を勘案して応募する事になります。

個人が複数のチームに所属する事は、それが実際に可能である限り、可能です。(具体的には、同一市場=ある特定の国など、において、複数の製品を販売するなど。)当然、その貢献にしたがって、複数チームからの利益の分配を受けられます。

(管理部門に納める利益の割合は、会社の情況によって調整が必要)

 

. エンジニア部門の利益計算

営業は以上のようにシンプルですが、では、エンジニアはどうするか?

大きく次の2つの立場から考えます。

 

(1)研究開発者:

研究開発者は基本的に自己が開発した技術によって食います。すなわち、自己の発明を特許登録し、もし、権利使用料が入れば、半分を自己の収入とし、半分を会社に提供します。この際、多額の収入を得た者は、自発的に会社に研究設備を寄贈したり、社会に還元する等の姿勢が望まれるでしょう。

 

(2)生産管理者:

生産の合理化が収入源になります。すなわち、営業部門への引渡価格から、材料・人件費を含む全ての製造コストを引いたものの半分を給与として取ります。残り半分が会社の取り分です。

この際、営業部門への引渡価格をどう設定するかがポイントになりますが、基本的には、同業他社から同様の物を仕入れた場合の価格(市場価格)が、一つの基準となるでしょう。

もちろん、現在の生産性等を考慮して、修正を加えます。

市場にこれまで存在しなかった製品の場合は、営業部門と相談の上、適切な引き渡し価格(営業にとっての仕入価格)を設定し、仕入価格から製造原価を引いたものの半分を会社に納め、半分を自分で取る事になります。この仕入価格は、その後の市場実勢、営業部門の販売実績等に基づいて、適宜修正されます。

 

. 管理部門の利益計算

管理部門をどうコントロールするかは、最大の難問です。パフォーマンスを測る客観的な尺度が得られにくく、注意を怠ればすぐに肥大化し、企業活動の勢いを削ぐことになります。

 

方法の一つは、同様の内容をアウトソーシングした場合の経費(=市場価格)と比較する事です。比較して、同じ内容をより安い経費(給与含む)でやっていれば、その差額を利益とみなし、その半額を加給金(ボーナス)として還元します。

 

もう一つの方法は、総量規制です。

会社は基本的に各利益創出部門(プロフィットセンター)の利益の半分を得ますが、これを限度として管理部門を養うのです。会社に集まった利益から管理部門に掛かる総ての費用、例えば、会社社屋のレンタル料や減価償却費(割掛け分を除く)、全社備品費、管理部門の経費(人件費含む)などを差し引いたものが全社の利益となります。この利益から税金や株主への配当を支払います。管理部門活動の原資がプロフィットセンターの利益で制限されている以上、管理部門の肥大化を自然に押さえることが可能になります。また、もし少ない人員で管理部門をマネージ出来れば、管理部門一人当たりの給与を引き上げることが可能になり、同時に生産性が向上します。さらに、プロフィットセンターの利益が増えれば自分たちの活動原資も増えるため、プロフィットセンターへの協力が積極的になります。

管理部門の費用を何でもプロフィットセンターに割り掛け、プロフィットセンターの利益管理を厳しくするのは、結果的に管理部門の肥大化を招くだけであり、最悪の方法です。

 

以上